新建築住宅設計競技 主催:一般財団法人吉岡文庫育英会 + 株式会社新建築社

新建築住宅設計競技は、吉岡文庫育英会と新建築社の主催で1965年に始まりました。これまで、丹下健三氏やジャン・ヌーヴェル氏、西沢立衛氏をはじめとする国内外の著名な建築家を審査委員として迎えて開催してきました。世界中から応募案が集まる歴史ある設計コンペです。

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新建築住宅設計競技2024 特別版 島から食卓へ ─ パブリックダイニングのための小さな建築

世界の食料生産・流通・消費は、複雑に絡み合い、遠い国の社会情勢や気候変動によって私たちの食卓に並ぶ食材の価格や供給安定性にも大きな影響を及ぼすグローバルな側面があります。同時に、食は地域の気候や歴史に強く根差し、地域ごとに多様な食文化が広がるローカルな側面も持ちます。

日本の島嶼部もさまざまな食材の産地として、日本の食文化を支える役割を果たしてきました。そのひとつである瀬戸内海の小豆島を対象として、生産と消費を近づけ、地産地消で食を楽しむ「Farm to Table(農場から食卓へ)」という概念を拡張し、小豆島ならではの「Island to Table(島から食卓へ)」の風景をつくることは可能でしょうか。

小豆島は、温暖な気候に適したオリーブやみかんの畑といった地域資源が豊富な地域で、地形や地理的な文脈から発展した醤油やごま油をはじめとする食料生産のための建築が島の風景をつくっています。
海上交通の要所であり、景勝地でもある小豆島には各地から人々が訪れますが、地域住民と来島者が交わる場において、食は重要な役割を果たしてきました。霊場をめぐるお遍路さんに「お接待」として食事をふるまったり、近年の瀬戸内国際芸術祭を経てアーティストと地域住民が集う食堂や屋台が生まれるなど、食を介して異なる出自の人々が親交を深めてきたのです。
しかし、人口減少により食産業もまた担い手不足に直面し、食を楽しむ場は縮減を余儀なくされています。島に広がる食文化や生産風景を引き継ぎながら、それらを楽しむための新たなパブリックダイニングを移動可能で最小限の建築から考えること、それが今回のテーマです。

このコンペティションでは、現在新しく港施設の建設が進んでいる小豆島の南東部に位置する坂手港エリアを対象にした、パブリックダイニングのための小さな建築のアイデアを募集します。実際に運営・出店することを想定し、5つの計画条件のもと、3台のフードトラックを中心としたコミュニティの場としてのパブリックダイニングを提案してください。

食というテーマのもと、ローカルな視座から生まれる新しい建築の提案を期待しています。

賞金

  • 入選賞金数点100万円

※入選点数および賞金の配分は審査員の決定に従います。

スケジュール

  • 2024年6月1日 (土)登録開始
  • 2024年8月31日 (土)応募登録終了
  • 2025年2月1日 (土)入選発表

応募要項

  • 計画要件

    条件1:
    フードトラックの形式は問いませんが、島内の交通事情及び仕入れや他のエリアで営業を行うことを想定し、普通免許で運転可能な車で移動することを前提に考えてください。

    条件2:
    実際に飲食の提供を行うために、保健所による営業許可の取得が可能な調理器具・シンク・冷蔵設備・水タンクなどを搭載し、埃や虫などの侵入を防止できるよう配慮してください。提供する食品は生物は扱えず、提供直前の加熱処理が前提となります。

    条件3:
    フードトラックは3台つくるものとし、坂手港の拠点で集まってできる風景を想定してください。ただし、島内各地へそれぞれ営業に行くこともあります。

    条件4:
    島の生産・収穫・提供する食材や調理法・メニューといった提供するコンテンツについても、建築と併せて提案してください。島の暮らしをより豊かにし、同時に世界から島への注目を増やす、空間とコンテンツの一体的な提案を期待します。

    条件5:
    自由で新しい提案を求めますが、同時に制作・運営することを見込んだ実現性とのバランスを考慮してください。コンペの結果によらず、現在計画している小豆島でのプロジェクトへの参加をお願いする場合があります(法規や予算等諸条件に合わせて案を変更することがあります)。

  • 対象エリア

    小豆島坂手港エリア
    現在、観光拠点として再整備が行われ、新しい港施設が建設中の坂手港周辺を対象敷地とします。

    所在地:香川県小豆郡小豆島町坂手
    対象敷地周辺地図

  • 参加登録

    登録は、専用WEBページ上の登録フォームから行ってください。必要事項を入力すると、e-mailで登録番号が交付されます。この登録番号は応募にあたって必要となりますので、各人で保存してください。登録番号交付後、登録内容に変更が生じた場合は再度登録を行ってください。また、複数の作品を応募する場合は、その都度登録してください。
    ・交付後の、登録番号に関する問合せは受け付けません。
    ・応募登録は当WEBページ以外からはできません。
    ・携帯のメールアドレスでは登録番号通知メールを受け取れない場合があります。

  • 提出物

    応募作品:寸法420mm×594mm(JIS規格A2)2枚に、配置図、平面図、立面図、断面図、アクソノメトリックまたは投影図、パース、その他設計意図を説明するに必要と思われる図面や、模型写真、グラフなどの図版、設計主旨(日本語または英語で記すこと)などを各自選択して描いてください。外部リンクを埋め込むことも可能とします。
    なお、設計主旨は日本語600文字または英語250ワード以内でまとめ、12ポイント以上の大きさで応募作品内に記入してください。
    ・ファイル形式:PDF形式
    ・ファイルサイズ:合計10MB以下(2枚でひとつのファイルにまとめること)
    ・応募作品提出時に事前に受け取った登録番号を電子ファイルの名前として使用してください。(例:skc0000.pdf)

  • 応募方法

    登録完了メールで指定されたURLの応募フォームに従って、応募者の情報やファイルなどをアップロードしてください。(ファイル容量にご注意ください。規定外の作品は審査対象外となります。)

    注意:応募締切間際は回線の混雑が予想されます。お早めの応募をお願いします。
    なお回線混雑による提出遅れにつきましては、対応しかねますのであらかじめご了承ください。

  • 1次審査結果発表

    2024年10月上旬
    1次審査の結果は、通過者に通知するとともに、当WEBページで発表します。

  • 2次審査

    2024年11月頃
    小豆島での開催を予定しています。通過者によるプレゼンテーション、審査委員との質疑応答を経て、審査委員による公開審査会を行い各賞を決定します。
    開催に関する詳細は、通過者に通知します。

  • 入選発表

    月刊『新建築』2025年2月号(2025年2月1日発売)、および月刊『a+u』2025年2月号(2025年1月27日発売)、同誌デジタルデータ、当WEBページを予定しています。

  • その他

    ・応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、出版権は新建築社が保有します。
    ・応募作品は入選・選外に関わらず、当WEBページに掲載されることがあります。
    ・応募要項についての質問は一切受け付けません。要項に書かれている範囲内で応募者が 各自判断してください。
    ・応募作品は未発表のものに限ります。応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を 侵害するものであってはいけません。また、雑誌や書籍、WEBページなど、著作物から 複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入選を取り消す場合があります。
    ・受賞作品につきましては、掲載時に新たに応募データを送っていただきます。
    ・応募に関する費用はすべて応募者が負担してください。
    ・2次審査が小豆島で行われる場合は、交通費として1組5万円(税込)まで支給いたします。
    ・応募作品は各自で内容を確認の上、お送りください。応募後の作品差し替えは不可とします。
    ・文字化け、リンク切れにご注意ください。リンクファイルは埋め込みとしてください。
    ・規約に反するものは受理できない場合があります。

テーマ座談会

今回のテーマである「島から食卓へ ─ パブリックダイニングのための小さな建築」について、審査員の3名にお話いただきました。


──そもそも食の場とは、どのような意味を持つのでしょうか?

中村航(以下、中村) 食べるということは、一緒に食べる人や料理人、提供される食材の生産者、文化やそれぞれの価値観など、さまざまな関係性が集約されたうえでテーブルの上に現れてくる行為なので、人々のコミュニティの場の最たるものではないかと思っています。僕は食を、建築や都市と人との接点として捉えているところがありますが、一方で食の場=コミュニティの場といってしまうのにも少し違和感があります。人と食事をするといっても、話に夢中で出てくる料理へほとんど意識が向いていないような場面もあれば、サーブされる料理を1皿ずつ説明してもらいながらうやうやしく食べる場面もあり、その様子にはかなり振れ幅があります。コミュニティの場であるとだけいってしまうと、評価軸が前者のように会話が盛り上がるかどうかだけに偏ってしまいがちですが、それが全てではないでしょう。一方で後者のような高級店でうやうやしく、といったことだけでもない。テーブルで料理の感想を話したり、たわいのない話に花が咲いたり、みんなでつくりながら食べたり、お店の人やつくってくれた人とやり取りをしながら気軽に食事をするような、ちょうど中間くらいのバランスを時と場合に応じて使い分ける必要があります。そうすることで、食を建築や都市と人との媒介として考え、大事な風景としてデザインすることが可能になるのではないでしょうか。

原田祐馬(以下、原田) これまでに見た食事の風景としてふたつ記憶に残っていることがあります。ひとつは、イタリアのトリノ・ヴィアバルテアにある「地区の家」という、建築家のアンドレア・ボッコさんが運営する公民館のような地域コミュニティの場に行った時のことです。この地域は、移民の方がとても多く、元々居場所が見つけられなかった人たちが、カフェがあることで食事のために集まれるようになっていて、そこが彼らの居場所となり、地域コミュニティの場へと育っていました。私が最初に訪れた時、そのカフェのテーブルにはカゴを編んでいるおじいさんがいました。その4年後ぐらいに再訪すると、再会を楽しみにしていたおじいさんはもう亡くなっていてとてもショックを受けましたが、カフェの壁にはおじいさんと近所の子供たちがテーブルで一緒にかごを編んでる写真がいっぱい飾られていて、おじいさんのカゴはそのカフェでとても大事に使われていたんです。誰でも自由に来て座っていい椅子やテーブルがひとつあるだけで、こんなにも人を取り巻く環境って変わるんだと、とても感動しました。
もうひとつは、先日開催された音楽フェスでドットアーキテクツと協働し、会場の1エリアにつくった2日間の期間限定レストランです。ここではテーブルを1台つくって照明を吊し、長崎の雲仙から持ってきた稲藁を周囲に敷き詰めることで、もともとあるなんでもない風景をテーブルひとつで変えていくような、「地区の家」で刺激を受けたデザインとしました。しかし、フェス当日はとても暑くて、日除けがない中で太陽の下でご飯を食べることになったんです。でも、そんな環境で食事をすることが全然なかったので、それがとても気持ちがよくて、少しシーンが変わるだけでコミュニケーションが変わるんだということに気づきました。たとえば、「美味しいね」だけでなく、「暑いね」と環境が会話を変化させていく感じです。説明を受けて情報でご飯を食べているというより、その場の空気感でご飯食べていてとても楽しかったです。2日目は、あまりにも暑いので、屋根を架けましたが。

野村友里(以下、野村) 食事をする時は、その土地で育ったものを必ず使うようにして、気温、天気、空気といった風土を、時間をかけていろんな感覚で共有して分かち合えるところが、食のいいところだと思っています。なので、空間もコンセプチュアルではなく自然な場になるように心がけていて、箱の中に入ってしまってどこにいるか分からないということがないように、なるべく揺らぎや隙間ができるような、風通しがいい状態にしたいなと考えています。
原田さんがおっしゃった音楽フェスに私も出店したのですが、今年は風が強く、布アーティストに染色染めしてつくってもらったテントがひらひらと揺らいでいました。本当は、風が強いと料理や音が飛んでしまうのですが、テントによって風が可視化されることがすごく美しくて、その揺らぎの中で自然現象を受け止めながら食べたり飲んだりすることがとても開放的に感じられました。頭で理解するだけでなく、その日その場所の気候や環境を取り入れて、どれだけ調和できるかを意識しているような気がします。

中村 野村さんが書籍『restaurant eatrip』(2023年)の中で、非日常の場所であるレストランの最初のおもてなしとして、カジュアルすぎる紙ナプキンではなく、緊張感のある白いテーブルクロスでもなく、染めた布ナプキンを使うと書かれていて、とても空間的な話だなと思いました。ナプキンひとつですけど、それだけでものすごく哲学が伝わってきますよね。

野村 食べ物やそれにまつわるストーリーももちろんすごい大事なファクターですが、その場にしかない空気感とか環境的要素を取り入れると、意識として後に残る気がしていて、それがすべてを食べることを取り入れたということに繋がるのかなと思うときも多いです。


──今回、小豆島の坂手港が対象敷地として設定されています。

原田 小豆島は港が5つあって、航路がいろんな都市部と繋がっているので、物や人が出入りするし、瀬戸内のハブみたいな島でもあります。なので、船が動き続けることがとても重要なことだと思っています。航路を活かした仕事が暮らしの中に混ざりながら存在していて、都市部のようにはっきりと仕事と暮らしが分かれていません。それぞれの人に役割があり、助け合っているように思います。たとえば、ある人は菌と暮らしながら、醤油をつくったりお酒をつくったりしていて、それらを航路を使い商売をすることでさらに関係が広がって...と生業が繋がって絡まって島の風景をつくっているのです。繰り返しにはなりますが、仕事と生活が緩やかに繋がっていて、自分たちの生活リズムの中でものを生み出していくようなイメージが小豆島にはあります。
そういえば、以前、イカ漁に連れてってもらったことがあって、その時に漁師さんが山でバベ(ウバメガシ)の木を切ってきて、それを網の中に入れて海に罠を仕掛けていたんです。するとその枝にイカが卵を産みにきて、イカが取れちゃうんです。そして卵がついた枝は海に戻すことでサステナブルな漁になっていく。島民が当たり前のように自分たちの生活圏内にあるもので、漁を営んで、循環させていくような知恵をもっているのを見て、その時に食べたイカの味が感動するぐらい変わったのを覚えています。今でも小豆島の山を見ると、イカを思い出します。

中村 2022年にフードトラックを制作して実際に運営するというプロジェクトで小豆島に通っていたのですが、行く前に自分が想像していたのと違ったのは島のスケール感でした。本土とは陸路や橋では繋がっていないけど、島としては結構大きい。車でないと移動が難しかったり、そうはいっても坂の上の方は細い道だらけで大きい車では入っていけなかったりと、何となく漠然と思い描いていた、瀬戸内海の穏やかで自転車で走るような自然が広がる島のイメージとは少し違いました。土庄港から坂手港まで町が点在していて、原田さんもおっしゃっていたように、地元の産業と生活が綿々と繋がっている風景が印象的です。醤油や素麺、オリーブや漁業などの産業が機能しているのは、ある程度の規模があったからこそでしょうが、地域に産業が根付いているのはとても豊かだと思います。なので小豆島でやるならフードトラック単体のデザインということではなく、食を通じた地域の風景というような少し広い意味で捉えたいと思っていました。

野村 私の知り合いで小豆島に住んでいる人は、島が好きで移住して、島の良さをもっと多くの人に知ってもらおうという活動をしていることが多いように感じます。その中で、島の風と気候が適しているということで生ハムをつくっている人がいて、内海で高低差もあって、気候が穏やかなところがすごく島の風土的な特徴なんだろうなというイメージをもっています。


──食を提供する場が移動することには、どのような可能性を感じられますか?

野村 想像するだけでいろんな可能性があると思います。食材だとよく生産性に近寄るっていうような言い方をするのですが、場所を固定していないことが魅力的だなと思ったのは、同じ島の中でも生産的な地形も含めて、行った場所がその日の食事の場所になり得るということです。普段、建築は基本動かないものだと思ってるところがありますよね。でも実際は空間って布が1枚あればできるんです。そういう意味でいうと、たとえば満月だから満月がよく見える下とか、提供する食材がハムだから農場の近くとか、移動することによって好きな場所で空間がつくれるので、決まった場所で料理をするのとは違う発想が生まれる可能性はあるのかなと思います。建築は多分今すごく豊かで、メッセージ性を持たせたり、素材やデザインから考えたり、いかようにでもつくれる可能性があると思います。私はどちらかというとその空間の中にどう火を灯すかを考えることの方が多いのですが、今回みたいに移動したりすると全員の視点が変わるので、外側をつくる人・内側をつくる人という立場での役割が少し柔軟になって、一緒に場所を決めたりできる可能性を秘めていて、今回のテーマは想像するだけで面白いなと思っています。

中村 僕はアジアのいろいろな国で街路に出る屋台をリサーチをしていますが、タイヤがついてるものであっても動き回ることを前提にしているものはそう多くはありません。調理が発生したり屋台の周りに食材やゴミ箱を置いたりするので、一度出店したら少なくとも数時間は同じ場所で営業することになります。都市部では人が集まるところに屋台が出現するので、一度いいところに陣取ったらしばらくそこで営業する。動くことそのものよりも、動くことが可能だということのほうが彼らにとっては大事なのかもしれません。一方で、島のような環境で出店することを考えると、同じ場所に陣取って食べに来てもらうだけではなくて、それこそ料理人とお客さんがどこかに一緒に出向いたり、港に行って魚を釣って近くで調理して食べるような、都市での暮らしでは考えられない贅沢なことがフードトラックで実現できるのではないかなと思っています。今回のコンペでは敷地が設定されているので、拠点としての出店場所は必要なのですが、どこにでも行ける機能性を備えた、複数のモードを使い分けられる提案が出ると面白いかもしれません。現実的だけど、現実の先をいった提案が見れることを楽しみにしています。

原田 僕は2012〜2016年まで瀬戸内国際芸術祭で小豆島に関わらせていただいていて、数年間空いて去年くらいから、また新しいプロジェクトで行くことが増えています。以前は、坂手港には昼でも夜でも食事ができて地元の人が日常的に行ける飲食店が1件あったんですが、先日、それがなくなってしまっていたことに驚きました。そういう場所がなくなると、ちょっと何か外で食べたいと思った時に地元の人はどこに行ってるのだろう?って。一方で、坂手港から坂を上がったところのブルワリーが飲食店を構えていますが、週末は港の空き地で屋台を出していますよね。港でただ座って海を見ていた何もなかった頃もすごい良かったんですけど、あえてちょっと飲みながら話すとか集まれるみたいな機能ができたことによって、すごい熱量みたいなものがそこに帯びたなと思いました。地域の人たちが楽しめるような場所として営まれていることが起点となっていて、観光で来た人もその熱量につられて吸い込まれるように入っていっていくような場所になっている。これは、すごい貴重だなって思いました。今回のコンペも、そんな熱量が溢れ出すようなものになったらいいなと思っています。昔は、港の周りに屋台がいっぱい並んでいて、みんな下駄を履いてカランコロンと音を鳴らしながらその屋台にラーメンを食べに行ったという都市伝説みたいな話を、地元のおじさんたちがいつもしてくれます。その話を聞いて、屋台のような一過性的な存在が残す記憶の中にある風景には可能性を感じました。

中村 僕らが運営した時は、実際にトラックに立ってくれた島の料理人のおふたりが、いろんな場所やイベントに日替わりで出店してくれたことで、少しずつ認知が広がっていったので、毎日違うところに行くことがもたらす効果というのは確実にあったのかなと思います。ただ小豆島の飲食業全体としては、主に車移動で夜食べ歩く人が少ないため、お酒を出す飲食店は成り立ちづらいという現実もあります。人口2.5万人ほどですが皆車でないと生活できないような環境なので、一緒に飲みましょうといっても簡単ではありません。これは小豆島だけの問題ではないですが、人口減少時代の日本において都市の外側の環境をどうしていくかということも、今回のひとつのテーマとしてあるかもしれません。


──最後に、今回のテーマについてひと言お願いします。

中村 今回は、具体的な敷地が設定されていて、調理の仕方や提供する食材・料理、家具や設えなどの提案も同時に求めています。建築をベースにした通常のコンペよりも具体的にいろんなことを想像してほしいということが、コンペの趣旨のひとつです。一方で、細かい目先のことだけを考えるのではなく、「食」という、建築の外側の領域を扱うことによる広がりを持った大きなテーマでもあります。小さいところから、建築の領域を拡張し、小さなものと大きなものがうまく結びついた提案を見たいなと思ってます。

原田 基本的なことを押さえるのはとても重要ですが、何か隙があるとか、抜けがあるとか、完璧すぎないものを見てみたいなと思っています。その隙間みたいなものが何か地域の人に開かれていくきっかけになったりもするんじゃないかなという期待があります。もうひとつは、野村さんがおっしゃっているナプキンのような存在から建築が立ち上がってくる可能性です。入口が丁寧に考えられていたら、それはちゃんと風景になっていくだろうし、「美味しい」にも繋がるような気がするので、小さなことと大きなことを行き来しながら設計していくことが、今回のポイントにもなりそうだなと改めて思いました。

野村 皆さんがおっしゃってくださった通りで、あとは食としての要素と、その中にどれだけ揺らぎとか、柔らかさといった、形容詞的な表現が当てはまるのかなというのが楽しみです。

審査員

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    中村航

    1978年東京都生まれ/2002年日本大学理工学部建築学科卒業/2005年早稲田大学大学院修士課程修了/同大学博士課程・助手等を経て2010年~2016年東京大学大学院隈研吾研究室助教/2017年~2020年明治大学I-AUD教育補助講師/2011年博士号(建築学)取得・MOSAIC DESIGN 設立(2017年法人化)/主な著書に『POP URBANISM/屋台・マーケットがつくる都市』(2023年、学芸出版社)

  • Harada_U

    原田祐馬

    1979年大阪生まれ/UMA/design farm代表/どく社共同代表/大阪を拠点に文化や福祉、地域に関わるプロジェクトを中心に、グラフィック、空間、展覧会や企画開発などを通して、理念を可視化し新しい体験をつくりだすことを目指している。「ともに考え、ともにつくる」を大切に、対話と実験を繰り返すデザインを実践。

  • NEW_Yuri Nomura_photo by yu inohara

    野村友里

    料理人/eatrip主宰/長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。ケータリングフードの演出や料理教室、雑誌での連載やラジオ出演などに留まらず、イベント企画など食の可能性を多岐にわたって表現している。生産者、野生、旬を尊重し、料理を通じて食の持つ力、豊かさを伝える活動をしている。最近はeatrip soilを運営。/著書に『とびきりおいしいおうちごはん』(2023年、小学館)

応募登録エントリーは2024年8月31日まで後2 months