新建築住宅設計競技2026 次世代ICTと建築・都市の可能性
コンピュータと通信の発展を礎として、急速な技術革新が進んでいます。たとえばここ数年で、日々の暮らしから、巨大な産業に至るまで、私たちを取り巻くほぼすべての分野に「生成AI」が導入されるようになりました。こうした技術革新は、私たちのくらしや価値観そのものにも大きな影響を与えます。
では、次世代のICT(通信基盤からAIまでを含む情報通信技術)は、建築や都市にどのような変化をもたらすでしょうか。私たちは、ICTがもたらす光と影の両側面に目を向けながら、これからの社会を考え続ける必要があります。そこで鍵となるのは、われわれ人間が知っている世界とは異なる「環世界」の考え方かもしれません。
環世界とは一般的に、生物同士が同じ環境に共存しながらも、それぞれの知覚を通して異なる認識や時間軸を持つという考え方を表します。環世界は私たちにさまざまな問いを投げかけます。情報の「オープンとクローズドのバランス」をどのように考えるべきなのか。「人間以外の知性」をどのように技術へ取り込むべきなのか。そして、ICTとの共生が進む時代に、生命やモノに備わる「体内時計」から何を学ぶことができるのか。
このように、建築の領域にとどまらず、生命科学や情報科学など他分野の知見も手掛かりにしながら、次世代ICTと建築・都市をめぐる発想を広げてみてください。ICTを利便性の向上のための技術として捉えるだけではなく、生命や建築・都市の新たな可能性を切り開くものとして捉え直す提案を期待しています。
入選賞金・賞品
- 入選賞金数点100万円
- 入選賞品数点建築・都市分野+ICT 分野+αの領域横断型イベントへの登壇権
入選点数および賞金と賞品の配分は審査委員の決定に従います。
また本コンペの模様は、月刊誌『a+u』にまとめられ、発表される予定です。
スケジュール
- 2026年7月1日 (水)登録開始
- 2026年9月25日 (金)応募登録終了
- 2025年3月1日 (土)入選発表
応募要項
参加登録
登録は、専用WEBページ上の登録フォームから行ってください。必要事項を入力すると、e-mailで登録番号が交付されます。この登録番号は応募にあたって必要となりますので、各人で保存してください。登録番号交付後、登録内容に変更が生じた場合は再度登録を行ってください。また、複数の作品を応募する場合は、その都度登録してください。
・交付後の、登録番号に関する問い合わせは受け付けません。
・応募登録は当WEBページ以外からはできません。
・携帯のメールアドレスでは登録番号通知メールを受け取れない場合があります。応募資格
個人・グループを問わず応募可能です。
また、本コンペでは異なる専門分野の参加者との学際的な協働を歓迎します。提出物
応募作品:寸法420mm×594mm(JIS規格A2)2枚に、配置図、平面図、立面図、断面図、アクソノメトリックまたは投影図、パース、その他設計意図を説明するのに必要と思われる図面や、模型写真、グラフなどの図版、設計主旨(日本語または英語で記すこと)などを各自選択して描いてください。外部リンクを埋め込むことも可能とします。
なお、設計主旨は日本語600文字または英語250ワード以内でまとめ、12ポイント以上の大きさで応募作品内に記入してください。
・ファイル形式:PDF形式
・ファイルサイズ:合計10MB以下(2枚でひとつのファイルにまとめること)
・応募作品提出時に事前に受け取った登録番号を電子ファイルの名前として使用してください。(例:skc0000.pdf)。また、応募作品の右下に、30ポイント以上の文字サイズで登録番号のみを明記してください(登録番号以外の応募者を特定できる内容は記載しないこと)。応募方法
登録完了メールで指定されたURLの応募フォームに従って、応募者の情報やファイルなどをアップロードしてください(ファイル容量にご注意ください。規定外の作品は審査対象外となります)。
注意:応募締切間際は回線の混雑が予想されます。お早めの応募をお願いします。
なお回線混雑による提出遅れにつきましては、対応しかねますのであらかじめご了承ください。1次審査結果発表
2026年11月上旬
1次審査の結果は、通過者に通知するとともに、当WEBページで発表します。2次審査
2026年12月頃
東京都内での開催を予定しています。
1次審査会通過者には、応募案に基づいた動画を制作いただきます。
2次審査会では、通過者によるプレゼンテーション、審査委員との質疑応答を経て、審査委員による公開審査会を行い各賞を決定します。
2次審査に参加される方には、交通費として1組5万円(税込)まで支給いたします。入選発表
月刊『新建築』2027年3月号(2027年3月1日発売)、および月刊『a+u』2027年3月号(2027年2月27日発売)、同誌デジタルデータ、当WEBページを予定しています。
その他
・応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、出版権は新建築社が保有します。
・応募作品は入選・選外に関わらず、当WEBページに掲載されることがあります。
・応募要項についての質問は一切受け付けません。要項に書かれている範囲内で応募者が各自判断してください。
・応募作品は未発表のものに限ります。応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはいけません。また、雑誌や書籍、WEBページなど、著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害やそのほかの疑義が発覚した場合は、すべて応募者の責任となります。また、そのような場合は、主催者の判断により入選を取り消す場合があります。
・受賞作品につきましては、掲載時に新たに応募データを送っていただきます。
・応募に関する費用はすべて応募者が負担してください。
・応募作品は各自で内容を確認の上、お送りください。応募後の作品差し替えは不可とします。
・文字化け、リンク切れにご注意ください。リンクファイルは埋め込みとしてください。
・規約に反するものは受理できない場合があります。
テーマ座談会
環世界を手掛かりに,複雑な関係性を紐解く
2026年度の新建築住宅設計競技のテーマは、「次世代ICTと建築・都市の可能性」です。この射程の広いテーマを多角的に考えるため、本コンペティションでは、次世代通信基盤IOWNの普及促進などを通してICT分野を牽引する、川添雄彦さん(通信)を審査委員長としてお迎えすると共に、青木淳さん(建築)、四方幸子さん(アート)、福岡伸一さん(生物)、吉村有司さん(都市)と、本テーマを取り巻く各分野の第一人者にお集まりいただきました。
先んじて収録された川添さんと吉村さんの対談(本誌2604、24頁)では、IOWNを切り口としてテーマを論じていただきました。今回の座談会では、改めて5名の審査委員それぞれの専門的視点から議論を展開していただき、テーマを巡る多様な可能性についてお話しいただきました。(編)
生成AIの光と影
──改めて、今回のコンペテーマについて、考えていることを教えてください。
川添雄彦(以下、川添) 今、次世代ICTを取り上げるならば、生成AIは避けて通ることのできないトピックだと思います。みなさんご存知のように、生成AIは非常に便利な道具で、インターネット上にある人間がつくってきたデータを徹底的に学習して、人間が短時間で導けないような答えをすぐに生成し、文章や画像、映像にすることができます。
吉村有司(以下、吉村) ここ数年の生成AIの進化のスピードは凄まじくて、今では日常生活で生成AIをパートナーのように使っていくことが当たり前の社会になりつつあります。ほんの数年前まではプログラミングができる一部の専門家しかAIを利活用できなかったし、そもそもAIという言葉すら一般にはそれほど浸透していなかったことを考えると、驚くべき変化です。また産業構造の転換に伴って、大規模な半導体生産拠点やデータセンターの需要が高まり、人口や交通、製造業の集積などを起点としてきた従来とは異なるプロセスから、都市が生まれる現実にも直面しています。日常生活のワンシーンから都市計画といったマクロな視点まで、あらゆる場面にAIが入り込む「AI時代」だからこそ、逆に人間の知恵や想像力、創造力が試されている時代とも言えます。
福岡伸一(以下、福岡) 身近なところでは、生成AIを中心としたICTによって、言語の壁が急速に溶かされつつあります。発言は瞬時に翻訳され、それぞれの母語で意味を理解できるようになりました。さらに近年では、非言語的な情報の解釈の補助も可能になってきています。たとえば、環境が人間の行為を自然に促す「アフォーダンス」という考え方があります。対象物を見ただけで、それをどのように扱えばよいかを直感的に理解することができる、というもので、ドアノブを見ればドアを「開ける」、椅子を見れば「座る」ことが瞬時に分かるような性質です。AIがこうした環境の特徴を読み取り、ガイダンスをすることで、人間が空間やモノの扱い方をより理解しやすくなる可能性があります。
一方で生成AIを巡る懸念点が論じられることも増えてきました。たとえば最近ではAIを自分の一部のように捉えて依存する人が増えてきていますが、テクノロジーに頼りすぎるとどうしても人間本来の能力や感覚は衰えてしまいます。もちろん潜在能力は残ると思いますが、たとえばステロイドを服用することで体内機能に影響が生じる場合があるように、両者はトレードオフの関係にあると考える必要があります。
青木淳(以下、青木) 建築業界でも、今、海外のエンジニアリング系企業を中心に、 生成AIが「意思決定支援のパートナー」として非常に便利な道具として使われ始めています。 ただ、このままではさらに進んで「意思決定の受託者」、人間に代替する「意思決定者」となっていく危険性がありますし、 生成AIは与えられた条件下での最適解を見つけることを得意とするため、自ずと答えが収束し、その生成されるものも凡庸になる懸念もあります。
四方幸子(以下、四方) それは、AIが「人工知能」と言われるように人間の知性をベースにした人間による技術であること、そしてまた人間の中でも、西洋近代の科学を基盤にした研究者たちによって発展してきた、合理性や機能性を重視した技術であることも要因なのではないかとも思います。こうした生成AIの成り立ちは、ゆくゆくはこの世界に不均衡をもたらすのではないかとも懸念しています。
川添 さらに、生成AIに注ぎ込まれたデータによって得られる、人類にとって重要な情報が、一部の人だけに集中してしまう可能性もあるのではないかと思います。生成AIに入力されるプロンプトには、世界で次に何が起きるかということ、つまり未来に関する情報が詰まっています。しかし、こうしたプロンプト情報へのアクセスは誰にでも開かれているわけではないのです。 またプロンプトを入れれば、答えらしき返答も示しますが、青木さんがおっしゃるように、それらは既知の情報から生まれたものです。本当に新しいものを生み出すのであれば、情報やプロセスはクローズドな空間の中で検討を深め、質を高めていく必要もあるのではないかと思うのです。

NTTが開発する生成AI「tsuzumi」は、企業や組織の知識体系をクローズドな空間の中で蓄積・活用し、検討や判断の質を高めることを志向している。組織や業務ごとの専門知識を追加できる「アダプタチューニング」も特徴のひとつである。
(画像出典:NTT技術ジャーナル)
環世界を通して次世代ICTとの向き合い方を考える
川添 私たちは、生成AIをはじめとする次世代ICTの存在を前向きに受け止めつつも、今後どのように向き合っていくべきか考える必要があります。私は、その鍵は「環世界」にあるのではないかと思っています。
たとえば今お話しした、大切な情報をクローズドな空間で守り育てることの重要性ですが、この考え方は生物の環世界について考えてみると、ごく自然なことのように思います。生物はおのおのの環世界を持っていて、時にほかの種と接触することもあるけれども、基本的にはクローズドな環世界の中で、それぞれ独立して進化を遂げてきました。これまで私たちの社会では、「オープンイノベーション」や「開かれた空間」という言葉をポジティブな意味で使うなど、どちらかといえばオープンであることに比重を置いてきましたが、私は今回の生成AIの誕生を機に、情報の世界においても生物の環世界と同じように、オープンとクローズドのバランスが見直されていくのではないかと考えています。
福岡 環世界とは、生物がそれぞれ固有の知覚を通して、自分なりの世界を構成しているという考え方です。人間が視覚や聴覚を通して経験する世界も、ひとつの環世界です。視覚で言えば、人間が見ているのは400〜700nm程度の可視光のみであり、非常に限定されたスペクトルの中で世界を知覚しています。そのため、人間には昆虫が見ることのできる紫外線も見ることができません。同様に聴覚の範囲も限られており、人間はコウモリが利用する超音波を聞くことができません。
先ほど挙げられた生成AIがもたらしたよい側面も、テクノロジーが、従来人間が持っていた環世界を広げた例として捉えることもできますよね。テクノロジーによって私たちは、遠い世界のことが瞬時に分かったり、これまで見えなかったものが見えたり、聞こえなかったものを聞くことができるようになりました。川添さんがおっしゃったように、環世界は、次世代ICTを考える上でも、非常に新鮮な視点をわれわれに与えてくれます。
四方 私自身も、ヤーコプ・フォン・ユクスキュルの環世界論『生物から見た世界』が日本で広く読まれるようになった1990年代頃から、この思想に大きな影響を受けています。
先ほど川添さんがおっしゃった、オープンとクローズドのバランスについては、1970年代に生物学者ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・ヴァレラが提唱した「オートポイエーシス(自己創出)」の考え方も参考になると思いました。彼らは生命を、「自分自身を産み出し続けることで自身を維持するシステム」として捉えました。たとえば細胞で言えば、自らの境界をかたちづくる細胞膜も固定されたものではなく、必要な栄養素を取り入れ、不要な老廃物を排出しながら、絶えずつくり替えられています。つまり生命の境界とは、内と外を完全に隔てる壁ではなく、環境とのやり取りを通して維持される動的な仕組みなのです。情報の境界についても、同じように固定されたものとしてではなく、環境との関係の中で維持され、更新され続ける動的なものとして考えていくのがよいのかもしれません。情報空間においても、オープンであることとクローズドであることを対立的に考えるのではなく、両者をいかに両立させるかが重要なのだと思います。
さらに先ほど、生成AIによって世界に不均衡がもたらされていくのではないか、という話をしましたが、ここでも人間以外の環世界、特にその知性を参照することによって、その偏りを見直すことができるのかもしれません。また、実際にそのような流れが起きつつあるように思います。人間以外の知性は、長らく十分に顧みられてきませんでした。しかし、戦後に発展したサイバネティクスや、1960年代以降の複雑系研究(脳や生命現象など、多数の要素からなるシステムを扱う研究)の中で、単純な要素同士の相互作用から予測不能な振る舞いが立ち現れる「創発」の議論が広がっていきます。つまり知性とは、人間の脳内の意識だけに宿るものではなく、相互作用やネットワークの中から立ち現れるものではないか、という見方です。さらに1980年代以降、コンピュータシミュレーションや人工生命研究によって、そうした現象が実際に可視化され、大きな注目を集めるようになりました。こうした研究は、 VRやAIへと連なる技術展開にも接続され、人間だけを知性の中心とする考え方そのものが問い直されてきているのだと思います。
川添 四方さんがおっしゃるように、確かにこれまでのAIは基本的に人間中心の情報を基にした技術であり、その能力限界もほぼ人間の能力と同じと言われてきました。ただこれでは、万能に見えるAIであっても、たとえば「なぜコロナウイルスがあのような変異メカニズムを経たのか」といった、人間中心の知識体系だけでは捉えきれない問いを解くことはできません。その答えは人間ではなく、この地球環境や宇宙に存在しているかもしれません。こうした問題に対応するため、近年の生成AIの開発では、人間が生成したデータ以外も学習すべきという考えのもと、これまでのラージランゲージモデル(LLM。大量のテキストデータを学習し、人間が使う自然言語を高度に理解・生成するAIモデル)だけでなく、 ワールドモデル(AI自身が物理法則や環境の規則といった現実世界を内部にシミュレーションし、未来の結果を予測・計画できるようにするモデル)を統合しようとする動きも出てきています。
また環世界について論じるのであれば、それぞれの生物が持つ体内時計も重要なテーマでしょう。体内時計は生物によって異なりますし、体内時計そのものも不変的ではないと考えています。たとえば、細胞が生まれてから死ぬまでのすべてのプロセスには時計が必要ですが、その時計は何を基準にしているのでしょうか。遺伝子情報の中には周波数そのものは含まれていません。私は、生物は環世界(ウムヴェルト)あるいは状況(サーカムスタンス)といった環境から、時間のリズムに関する情報を受け取っている可能性があると思います。
ちなみに、人間を含めた生物にはあるけれど、AIにはないものは何でしょうか。答えは「死」です。
福岡 生命は、エントロピー増大の法則に一生懸命抗おうとしていますが、最後抗いきれなくなって死を迎えます。それはつまり生命が時間という概念を持つということ、そしてAIは、生命が感じている時間感覚を持たないということになります。
時間のお話は、以前に川添さんとお会いした時にも盛り上がった議論ですね。いわゆる水晶発振の時計(クオーツ時計)のような、人間が外部につくっている時計は、オシレーター(発振器)に過ぎないわけです。振動を発生させたものに時間という概念を載せて、地球全体が共通の時間として参照されているだけで、本当の意味での生きられている時間というものは、おそらく物理世界には存在しない。生命世界だけに存在するのだと考えています。
四方 私は、現代においては人間の体内時計も速くなってきているのではないか、という気がしています。情報が速すぎて、膨大すぎて、みんなが拙速に生きているような感覚がします。たとえば私も今、早口で話していますが、昔の人はもっとゆっくり話をしていたように思います。生成AIをはじめとするICTが私たちに一体化していくことによって、人間の時間感覚にも影響を及ぼしてきているのかもしれません。人間の体内時計を整えるためにも、人間以外の生命の体内時計を参照することが、有効なのかもしれないと思います。
青木 建築を従来通りに物質によって構成されているものと捉えるならば、テクノロジー一般に比べて変化などの速度が非常に遅いという特徴を持っています。もちろん建築を、そこから時間の概念を取り除き、情報やサービスのような存在へと近づいたものと捉え直すこともできますが、建築の本質はむしろ、そういう流れへの抵抗としての意義の方にあるのかもしれないと考えています。
また建築の遅さは、建築そのものの変化の速度はもちろんのこと、人間の建築に対する認知の速度についても言えます。物理的なモノはデジタルと比べて、いろんな側面を持っていて情報量も多いので解像度が高く、人はそれをすべて一気に読み取ることができません。そこでわれわれは普段、モノを見る時に必要な情報だけを選択的に見て、それ以外を素通りするということをしているわけですが、 もしも見るべき意味を感じさせる空間のようなものがあれば、われわれの認知の速度を極端に遅くすることもできるわけです。たとえば一度使っただけでは分からないけれど、使い続けている中で発見する空間の質などです。このように建築や都市とICT、そして生命の異なる時間軸を前提とすることで、これから建築がこの世界にどのように関わっていくのかという点に迫ることもできるのかもしれません。
吉村 まちづくりの実務に携わっていると、デジタル技術が進展すればするほど、都市のスピードを落とすという観点が重要になってくる気がしています。私が長らくバルセロナ(スペイン)で関わってきた大規模歩行者空間化(スーパーブロック)では、歩行者だけではなく、自転車やマイクロモビリティ、自動車も含めた幅広い交通モードを許容する空間が目指されています。たとえば車道と歩道の境目をなくして視覚的にフラットにすることで、利用者相互の存在を意識させ、各交通モードが速度を落としながら譲り合うことを促す空間デザインです。超高速に都市間を結び付け人とものを運ぶリニア新幹線に象徴されるように、都市の高速化が進む一方で、人びとが速度を抑えながら空間をシェアする世界観も実現され始めています。街路を単に移動するためだけの空間ではなく、ゆっくりと移動することで生活を楽しむ視点をデザインに盛り込んでいるのです。スマホに代表されるデジタル技術を楽しみつつ、身体的にはゆったりとした時間を過ごせる都市を、デザインの力によって実現しようとしていると捉えることもできます。

バルセロナの大規模歩行者空間化の風景。路面にペインティングがされていたり、都市全体が歩いて楽しい街の雰囲気を醸し出している。歩行者だけではなく、自転車やマイクロモビリティなど多様な交通モードを許容する空間が目指されている。
(画像提供:吉村有司)
作品制作に向けて
──ここからは、今回のコンペティションに向けて、これらの議論をどのようにして作品として表現し得るのか、実例も含めてお話しいただければと思います。
青木 私は、昨年行われた第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で日本館のキュレーターを務めたのですが、その全体テーマは「Intelligens. Natural. Artificial. Collective.(知性・自然・人工・集合)」でした。そこで私は日本館の展示テーマを「中立点|In-Between」とし、生成AIとの未来を、人間と非人間、環境との「あいだ」に開かれた対話の場として提示しました。
この展示をつくる際にも、先ほどの議論にもあったように、人間以外の知性について考えました。コミュニケーションを例に取ると、人間は基本的に言語を介して意思疎通しますが、植物の世界では違う方法で情報伝達をしています。たとえばトマトにアブラムシが付くと、トマトがサリチル酸メチルなどの揮発性物質を放出して、周囲の植物がそれを感知して、防御反応を準備すると言われています。そして、私はこのような「知性」は人間や植物だけでなく、本当は、人間がつくった人工物、たとえば建物や橋などといったモノにもあるのではないかと思っています。「モノの寿命」という言葉があるように、モノにも固有の情報があります。もしモノが、人間の言語とは異なるかたちでそうした情報を交換しているのだとしたら、そうした関係性もまた、ひとつの知性のあり方と捉えられるのかもしれません。
今のAIは、生物史で言えばカンブリア紀のような爆発的な進化の段階にあり、多様な可能性を秘めています。こうした多様な知性を前提に、人間とAIの関係性、つまり「中立点」を捉え直すことで、生成AIもまた、単なる「正解」を返すシステムとは異なる方向へ行く可能性があるのかもしれないと考え、展示をキュレーションしました。

第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「In-Between」(会期:2025年5月10日〜11月23日)の2階部分の展示風景。室内中央には、下階と繋がる「穴」がある。「穴」は人間と対話することができ、対話の様子は、藤倉麻子+大村高広の映像インスタレーションに現れる。
(撮影:高野ユリカ)

第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「In-Between」(会期:2025年5月10日〜11月23日)の1階部分の展示風景。上階で「穴」が発言すると、銅製の鏡面大皿が、上階に向けて光を上向きに反射する、砂木の作品。
(撮影:高野ユリカ)
吉村 そう考えると、データは人間とそのほかの知性とのコミュニケーションを成り立たせるひとつの言語と捉えられるかもしれません。たとえばエリアマネジメント(住民、事業者、地権者などによる主体的なまちづくりの取り組み)の最前線では、「ダッシュボード」という考え方が実装され始めています。当該エリアのあらゆるデータを集めておいて、いわばそのエリアの健康診断を行うという考え方です。実は、都市は昔からそのような信号を発していたのだけれど、われわれがその囁きを聞く耳を持っていなかっただけなのかもしれません。大規模にデータを収集し可視化する技術が成熟したことで、都市の声を聞くことができるようになってきたとも考えられます。
四方 建築家やアーティストを志す人が、次世代ICTを巡る現在の状況について、どのようなメッセージを発信するかという点には注目したいですね。新しい技術世界は可能性であると同時に、生命とは何か、建築・都市とは何かといった、私たち自身、そして身の回りに存在するものの意味を問い直すような契機も内包しています。デザインやアートの分野には、新しい技術の恩恵を享受するだけでなく、そこから生じる問題や変化を可視化し、批評的に考察する役割も求められているように思います。近年のスペキュラティブデザイン(未来の問題を批評的に思考するためのデザイン実践)やポストヒューマニズムデザイン(人間中心主義を相対化するデザイン実践)は、まさにそうした問いに向き合うための思考や実践の枠組みとして登場してきました。それらは、私たちが新しい技術世界と対峙するためのデザイン固有の方法論のひとつなのかもしれません。
青木さん、吉村さんは、建築家の役割をどのように捉えていますでしょうか。特に最近では生成AIを用いることで、今後一般の方も自分で自分の家をつくることができるようになる可能性が出てきています。

コープ・ヒンメルブラウ《アストロバルーン 1969 リヴィジテッド——フィードバック・スペース》 (2008年)「コープ・ヒンメルブラウ:回帰する未来」展(会期:2009年9月19日〜12月23日、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])キュレーション:四方幸子
体験者の心拍にリアルタイムで反応するインタラクティヴ・インスタレーション。
(撮影:高崎勉 提供:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])

ダブルネガティヴス アーキテクチャー《コーポラ。プロスペクト》(2009年) 「ミッションG|地球を知覚せよ!」展(会期:2009年5月16日〜2010年2月28日、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]) キュレーション:四方幸子
変動する気象データをリアルタイムに計測することで、ヴァーチュアルな「建築」(東京オペラシティ)が会期中刻々と変容していくサイト・スペシフィックなプロジェクト。
(撮影:木奥惠三 提供:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])
青木 おっしゃるように、生成AIの発達によって一般の方が自分自身で住まいや空間を構想する可能性は、今後ますます広がっていくと思います。ただし先ほど触れたとおり、生成AIが導くのは最大公約数的な正解になりやすい。しかし私たち建築家の専門性は、既存の価値観や常識の延長線上にある解答にとどまらず、それをずらし、新たな空間の可能性を提示できる点にあるのだと思います。たとえば、先ほど福岡さんがおっしゃった「アフォーダンス」という言葉については、デザインの分野ではしばしばある対象が一義的な行動を誘導する手掛かりとして語られます。しかし、アフォーダンスはもっと豊かで多義的なものとして考えることができるのではないでしょうか。つまり、ある空間や装置がひとつの決まった使い方だけを示すのではなく、人によって異なる解釈や行動を引き出す。建築家の役割は、そのような行動や感覚の可能性をあらかじめ閉じてしまうのではなく、むしろ開いていくことにあるのだと思います。
吉村 青木さんと同じく、AIやデータの時代においても、建築家の専門性は、既存の価値観を超える空間の可能性を提示できる点にあると思います。AIやデータは最適化のための道具として捉えられがちですが、むしろ人がハッとするような新たな切り口を提示できる職能こそが建築家ではないでしょうか。
また、かつて建築家は都市に対するビジョンを示してきました。しかし産業構造が急激に変化する中で、都市が大きく、そして複雑になりすぎてしまったため、人間の手と目だけで把握して判断するには大きすぎる対象となってしまいました。このような状況にこそ、大規模データやAIが力を発揮するのだと思います。データやAIの力を借りつつも、これまでは誰も思い描けなかったような使い方を通して都市に対するビジョンを描き示す、「データサイエンティストとしての建築家」という観点はひとつ提示できると思います。
青木 とはいうものの、今回提出される作品が、そもそも私たちがこれまで考えてきたような「建築」や「都市」として現れるのだろうか、という疑問もないではないです。SF映画を振り返っても、1980年代以降、決定的に新しい建築や都市のビジョンはほとんど現れていないように思えます。私たちの世代にとっては、たとえば『ブレードランナー』(1982年)が未来都市についての最後の強いイメージだったのかもしれません。つまり、もはや未来は、新しい建築や都市の姿としては現れないのかもしれません。変わっていくのは都市そのものではなく、私たちの空間認識の方かもしれません。実際、私たちは物理的空間と仮想空間を同時に生きるようになっています。その結果、物理空間はかつてのように、世界を決定付ける中心的な舞台ではなくなりつつあります。だとすれば、建築はかなり危うい立場にあります。建築は単なる背景、あるいは凡庸なインフラへと後退してしまうかもしれません。しかし私は、建築がデジタル世界に従属して、そのインタフェースとして最適化されていくのか、それともデジタルでは回収できない身体性、重さ、偶然性、曖昧さを引き受けていくことで、新たな仕方でのデジタル世界との交差の仕方を発見できるのか、そのことが問われているように思っています。
吉村 都市計画の歴史は、フロンティア開拓の歴史と捉えることもできます(本誌2409、28頁対談参照)。1920年代には超高層ビルの建設技術がアメリカで確立し、建築家はスカイフロントを目指して都市を垂直方向に押し上げてきました。1980年代からはウォーターフロントが新たなフロンティアになりました。建築家は、こうした新たなフロンティアを、常に人びとが実際に経験する物質的・身体的な空間へと変換してきました。都市計画における現在のフロンティアは明らかにサイバー空間です。われわれ建築家がサイバー空間を語る時の優位性は、物質性や身体性を伴った空間に帰結させることができる点だと思います。
福岡 先ほどの建築の速度の話とも関連しますが、こうした状況だからこそ、建築には本来的に備わる物質性や身体性が改めて求められている、という見方もあり得るのかもしれません。いずれにせよ次世代ICTと建築・都市の固有性のせめぎ合いをどのように捉えるかという提案が求められるのだと思います。
川添 そうですね。そしてそのせめぎ合いを紐解く空間として、たとえば先ほどから議論されている、クローズドの価値を高めた空間、人間以外の知性を取り入れた空間、体内時計を変化させる空間といったものを提案することもできるかもしれません。
今回の座談会では、次世代ICTの中でも特に生成AIについて中心的に議論をしましたが、コンペティションでは次世代ICTを幅広く捉えて提案をしてほしいと思います。20世紀には車の誕生により、建築や都市のかたちが大きく変化をしたと言われています。21世紀においては、生成AIをはじめとする次世代ICTが、この社会のかたちに変化をもたらすのだと思います。ICTと迎える薔薇色の未来だけではなく、それが生命や建築・都市をどのように再編するのかまでを踏まえた、本質に迫る提案を楽しみにしています。
(2026年4月20日収録、文責:本誌編集部)
審査委員

川添雄彦審査委員長
1961年東京都生まれ/1985年早稲田大学理工学部卒業/1987年同大学大学院理工学修士課程修了/1987年日本電信電話入社/2009年京都大学大学院情報学研究科後期博士課程修了、博士(情報学)/2018年日本電信電話取締役研究企画部門長/2019年NTT Research取締役/2020年日本電信電話常務執行役員研究企画部門長/2022年同社代表取締役副社長副社長執行役員/現在、NTTチーフエグゼクティブフェロー、IOWN GLOBAL FORUM President and Chairperson

⻘⽊淳審査委員
1956年神奈川県生まれ/1980年東京大学工学部建築学科卒業/1982年同大学大学院修士課程修了/1982〜91年磯崎新アトリエ/1991年青木淳建築計画事務所設立/2020年青木淳建築計画事務所からASへ改名/現在、京都市京セラ美術館館長、東京藝術大学名誉教授
(撮影:前谷開)
四⽅幸⼦審査委員
1958年京都府生まれ/1984年アートについて執筆活動開始/1990〜2001年キヤノン・アートラボ共同キュレーター/1998〜2003年山口情報芸術センター[YCAM]プログラム委員/2002〜04年森美術館アソシエイト・キュレーター/2004〜10年NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 学芸員/2022〜25年美術評論家連盟会長/現在、十和田市現代美術館館長、多摩美術大学・東京造形大学客員教授
(撮影:小山田邦哉)
福岡伸⼀審査委員
生物学者・作家/青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授/大阪・関西万博(EXPO 2025)テーマ事業「いのちを知る」プロデューサー/サントリー学芸賞を受賞し、90万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)など、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。
(撮影:菊田香太郎)
吉村有司審査委員
1977年愛知県名古屋市生まれ/2001年よりスペインに渡る/ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了(Ph.D. in Computer Science)/バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

