コンペティション 2024 総評:小豆島での2次審査会を通して
2025.01.27
中村航 審査委員
新建築住宅設計競技で,実際の敷地を対象にした具体的な課題を出し,その敷地である小豆島で公開2次審査会を行ったのはあまり例のないことだった.アイデアコンペながらコンペという場を地域に開き,地元の方がたとも議論ができ,いろいろな提案を喜んでもらった.通常われわれが取り組むようなそれぞれの専門家としての業務を超えて,参加者全員で力を合わせてアイデアを生み出し提示しているような感覚があった.コンペならではの役割を果たせたのではないだろうか.真摯に地域のことを考えた優れた案が集まったが,総体として特に価値のあるイベントとなった.
1等となった「Archives and Listening Tracks」は,島のあちこちにある食材や技術,知識をアーカイブとして収集しながら島の食文化を育て持続させるという,移動する小さな建築の可能性を最大限に生かしながら,地域や産業の成長に寄り沿う見事な提案だった.
2等の「つみきじま ─みんなで積み上げる島の食卓─」も,集合時の祝祭性と離散時の可動性がバランスよく考えられた巧みな提案で,屋台の形態と記号的に連動した料理メニューが提案された点も本課題の狙い通りだった.
3等の「はたらくショク媒」は,詳細なリサーチとまちづくりに対する提案が濃密なイラストレーションに集約され,彼らのようなチームが地方行政と組んで地域に関与できると,その地域は間違いなく盛り上がるだろうなと感じさせられた.
審査会場では入選作品を展示し,地元の方からも審査会後に意見をいただいた.中でもフードトラックの集まる仮設の架構を提案した「Shodoshima Food Truck Hub」は,会場からの得票が多く,急遽オーディエンス賞を贈呈することとした.
これらのアイデアが少しずつでも実現していってほしい.

原田祐馬 審査委員
今回は,昨年までとは違い,設計だけでなくそこでどのようなプログラムや振る舞いが繰り広げられる可能性があるのかを提示するものだった.意欲的な提案も多く,特に2次審査会に残った6組は設計だけでなく,小豆島・坂手港という立地を読み解いた統合的な計画が評価を集めていた.オンラインと現地での審査を併走して進められた2次審査会は,現地に地元・坂手に暮らすみなさんや大江正彦町長なども来られていて,町側の期待が感じられる審査会だった.
1等「Archives and Listening Tracks」は,坂手の町そのものをアーカイブする手立てを考え,素材から開発に挑戦したり新たな建築に応用したり,メニューにもそれが及ぶような食べる,つくる,生きる風景を再構築していく滋味深いものだった.プレゼンテーションを聞いて知ったが,東京と坂手を2拠点で活動しているからこそ見えてくる提案だったように思う.私も坂手に滞在をしたことがあるが,同じように素敵だなと思う出来事や残ると良いなと感じる建築もあり,町に寄り添う態度のある素晴らしい提案だった.
3等「はたらくショク媒」の提案にも触れておきたい.器のような細やかなスケールのデザインから,人がどのように島に関われば良いのかという大きな仕組みのデザインまで考え尽くされていて非常に印象に残った.仕組みは展開してみないと分からないことが多いが,夢とリアリティが重なった提案は小豆島に暮らす人たちが挑戦したくなるようなものだったに違いない.
審査会後も応募者や町民のみなさん,審査員が交流し,良いものをつくりたいと思う人たちの出会いの場になっていたのが印象的だった.今後も提案者が島を訪れて何かが起きたり,少しでも提案が実現していくことに期待したい.

野村友里 審査委員
建築のコンペティションに審査員として料理人の,私が参加させて頂いたのはとても有意義な時間でした.画面上の1次審査では,その発想とそこから紐づくデザインに,小豆島の港という環境や移動式という条件があったにせよ「建築」から想像するハードなイメージより,とても柔軟で物語性や心象的な要素が強いことに,とても興味がもてました.また,小豆島の海,風,山,町並みを感じながら現地で2次審査をしたことは,海から港に入る島で暮らす人びとの目線もしくは島に外から訪れた人の気持ちをもって,より具体的に想像できたのは,よりよかった.
1等を受賞された「Archives and Listening Tracks」の作品は,その土地の風土や景色,文化を移動しながら記録し残していくという発想は,動くことで記録が建物の中の奥深くに仕舞い込まれることなく軽やかに,今の中に溶け込み未来にバトンできるかたちなのではと,大変に興味深く思いました.
「はたらくショク媒」の「食」と「職」を掛け合わせた作品も,人が動く動機と実践の動線が描かれており,目に見えにくいものの描き方も含めてプレゼンテーションにうまく落とし込まれていたのにも大変感銘を受けました.
今回のコンペに出された作品は,軽やかさが島の風景を壊さず,人が行き交うことで生きる作品が多く,賑わいの中心に食がある風景を想像でき,建築と風土,人,食の結びつきが想像できました.参加させていただきありがとうございました.