コンペティション 2020 総評:サステイナビリティと都市──これからの住宅と暮らし

2020.12.19
クリストフ・インゲンホーフェン

クリストフ・インゲンホーフェン 審査委員

21世紀の建築がすべきこととは?世界人口は2050年までに93億人に達すると推測されています.その予測を信じるとすれば,人口の大部分が大都市に集中し,中には人口1億人にもなる巨大都市も現れると考えられます.同時に,二酸化炭素排出量の80%は都市部が占めているという事実があります.そこで将来的に必要になってくるのが,超高密度の中での暮らしを可能にする新しい都市型建築です.東京,上海,ニューヨークは上手く機能している例と言えるでしょう.

しかし最近の出来事の中で,巨大都市の脆弱性が浮き彫りとなっています.コロナ危機やそれに伴うソーシャルディスタンス(社会的距離)を受けて,都市についての新しい考え方も求められるでしょう.これらが,このコンペティションに参加した78名の応募者への問い掛けです.

私はこの危機によって生じた重大な社会問題に対応し,それに対する答えや解決策をもたらす優れたアプローチを持つ作品を選出しました.最初の審査で主に3つのコンセプト,未来の住宅,未来の都市,そしてユートピア/SFに取り組む12作品を候補作としました.複数の応募作品が,サステイナビリティあるいは社会的利益に能動的に寄与するデザイン要素を取り入れていました.受賞作に選ばれたすべての応募作品が問い掛けに対する独自のアプローチと異なる答えをもっていたことから,5つの作品には序列をつけることなく,等しく入選とすることにしました.応募作品に込められた素晴らしいアイデアと努力のすべてに心から感謝しています.そして未来への問い掛けに対する答えを創造していくために,共にこのコンセプトに取り組み続けることを希望しています.

[124]Ark the shelter for living + working + supply(箱舟  生活と仕事と供給のシェルター)は,コロナの感染爆発やそのほかの疾病が流行した際に遭遇する,複雑な問題に取り組んでいます.この提案は高密度の都市のネットワークの一部なのですが,同時に必要があれば広域のコミュニティから独立して機能する,複合的な多目的のマイクロ・コミュニティを提供しています.人の集中によって引き起こされる潜在的な公衆衛生上の問題に対応する,人口密度の高い都市における新しい生活+労働+供給のあり方についての的確な構成を評価しました.

[204]House with Growth(成長と共にある家)は,膨張する人口に対する空想上の未来の答えです.応募者は自律的に成長する住宅という問題に取り組んでいます.プロジェクトは,公共空間と住宅が建てられた区画をコミュニティに還元するプラットフォーム化された農場を,モデュラー・システムに組み込んでいます.

[146]Artificial invasion of nature(自然の人為的な侵略)は,建築の緑化は必須であり,都市の再緑化というかたちで既存の建物にも緑を付加できることを明らかにしています.

未来を見据えた[220]Urban Resource House(都市資源住宅)は,所定の区域の居住者に彼らのための物資を生産する,アーバン・リソース・ハウス(都市資源住宅)を提案しています.彼らは自然環境を損なうことなく,高密度化する都市の人びとにどのように物資を供給するかという困難な問題に答えています.そのコンセプトを通じて彼らは,気候変動とサステイナビリティに大きなインパクトをもたらす,コミュニティと交通のあり方に一石を投じています.

[111]Vertical Urban Village(垂直の都市集落)の独創的な住宅ユニットは,活動的なコミュニティとサステイナビリティの相互作用です.ユニットのモデュラー・システムは4つの重要なコンセプト,構造,生活,栽培,公共空間で組み立てられています.このコンセプトは資源の再利用とエネルギーの効率化を促すことでしょう.それは仕事の空間を統合することでさらに拡張することができる,優れた提案です.

[241]Void-Volume(虚と実──ごみのダイナミズムから都市のサステイナビリティを再考する──)は,私たちが抱える問題(その源は私たちの消費です)と共に社会に向き合う創造的なアイデアのゆえに,特に取り上げておきたい提案です.興味深く目を引くこの作品は問い掛けに対する答えではありませんが,その発想とアイデアは評価されるべきものです.

(本頁,48頁,51〜52頁 翻訳:中田雅章)